エルティア学園2話:安心のフォロー体制

「――イネスは、友人を作るのが上手いよな」
「そーでしょ?  女の子にお誘いするのはもっと上手よ。断られる率も高いけどね」
 昼食のお誘いを受けたレティシスは、素直にそれを受けたようだった。
 購買で買った焼きそばパンを無言のままかぶりつき、咀嚼する作業を続けている。
 レティシスの目の前で、割と軟派な会話を繰り広げるイネスと黒髪の色男……ヴィルフリートも一緒である。
 男の目から見ても、イケメンというより美しいに入るような美形だった。
 190センチ近くはあろうかという高身長と、切れ長で涼しげな眼もと。
 赤い瞳はイネスの緋色の瞳とは違い、鮮やかだが黒味のある猩々緋色である。
 長い黒髪が邪魔らしく、食事を摂る際はひとまとめに結んでいる。
「そういや隣のクラスのルカちゃん、今日もスカート短くない?」
「あの女はいつもだろ。朝スカート捲りあげたら太い足で回し蹴りされたぜ」
「されるに決まってんでしょヴィル君さぁ……あ、パンツ何色だった?」
「それが、あの女毛糸の見せパンだったぜ畜生……。そういやアヤって子、今日は誰が飯に誘ってんだ?  レスターがソワソワしてた」
「あらー……アイツはその辺押しが足りないよねえ。アヤちゃんは多分、リネットちゃんとご飯じゃない?」
 イネスとヴィルフリートは、そういえばあのクラスの誰がどうとか、昼間から女子チェックに余念がない。
 しかし、その中でもやはり……シェリアの話題がないということに気付いた。
 何か言いたそうで聞きたそうにも見えるレティシスの様子を察知したらしいイネスは、うどんを食べているヴィルフリートを肘で軽く小突く。
「レティシス君の隣、あのシェリアちゃんだよ」
「ほー。転入生は早々に大変だな」
 問題ないだろと言いながら麺をすすり上げるヴィルフリートへ『それがさー』とイネスは大げさに嘆いてみせた。
「シェリアちゃんに一目ぼれっぽいんですよ」
「ぶほっ……」
 驚いた拍子に思わず食べかけの麺を噴きだすヴィルフリート。
 正面にいたレティシスと横に座っているイネスは、食べ物の入ったトレーを机の上から瞬時に緊急避難させた。
「悪い、ちょっとむせた。しっかしオイ、マジか転入生。悪い事は言わねぇからシェリアだけはやめとけよ。普通の女でよけりゃ紹介するぜ」
「そういうのじゃないって何回か言っただろ」
 少しばかり迷惑そうに告げるレティシスだったが、こんなナンパ師にすらやめとけと言われるシェリアは、一体何なのだろうか。
「……生徒会長ってのは、いわば生徒の代表なんだろ。悪い奴なのか?」
「悪いっていうか……ねぇ?」
「わざわざ目はつけられたくねぇよ。シェリアなんぞ口説きでもしたら、翌日公開丸坊主にされかねねーぞ」
 イネスとヴィルフリートの意見が一致している限りでは、シェリアは困った人に執着されている気がする。
「ストーカー……とかじゃないのか、それ。弱み握られてるとか」
「――レティシス君、あんまりそういうことを学校で言うんじゃないよ。壁に耳あり障子にメアリーさんだよ」
 誰だよメアリーって、とヴィルフリートがすかさずツッコミを入れていたが、そんな彼ですら真面目な顔をした後で『やめとけよ』と念を押した。
「だから違うって言っただろ」
「そんならいいけどさ。いざ目を付けられても、助けられないから頼ってこないでよ?」
 いちご牛乳のパックを握りつぶしながら、中身を飲み干すイネス。

「そういやレティシス君、部活どこ行くの?  うちの学園、然るべき事情がない限りは全員部活動推奨だよ」
 面倒な学園だなと悪態をついたが、ヴィルフリートもそうだよなナンパ部も作るべきだと意味不明な主張をする。
「何部があるとかは知らない」
「ええとね、弓道部に馬術部に槍部に剣術部と白魔術部黒魔術部召喚部……」
 指折り数えはじめたイネスだが、部活動の一覧はないのかとレティシスに遮られる。
「ないなー。入部届も兼ねて先生に貰いに行かないといけないや……一緒に行こうかレティシス君」
 まだ時間もあるから学校案内も兼ねるよと言って、席を立つイネス。
 俺様も時間があるから一緒に行ってやろうと、頼んでもいないヴィルフリートもトレーを置きに席を立った。
「ルエリア先生は怖いからね。いーい、ちゃんと真面目にやるんだよ。ふざけてバストサイズとか年齢聞いたら時計塔で逆さ吊りにされるよ」
「普通教師に聞かないだろ、そんなの……」
 聞いたやつもいるんだよと、イネスは憐みの視線をヴィルフリートへ向けた。
「……守備範囲が広いな」
「まあ先生美女だからねえ……」
 とりあえず好感度はシェリアちゃん以外の人には上げといた方がいいなどと、美少女ゲームのような解説をするイネス。
 学園内を案内されるうちに、職員室へとたどり着いた。

「ほう、イネスにヴィルフリートか。おまえたちは珍しくもないが、転入生に変な事を教えるなよ」
 淡いピンク色のスーツ姿のルエリア先生は、椅子に座ったまま彼らのほうへ身体ごと向ける。
 すらりとした長い脚を組んだままだったので、おう、とヴィルフリートは称賛の声を発した。
「レティシス君に、部活動一覧の紙と入部届を貰いに来たんですよ」
「ふむ。それくらいであればまぁ構わんが。薦めた所はあるのか?」
「いえいえ、これから希望を聞いて見学などはどうかと思ってるだけですよ~」
 肝心なレティシスを置いて、話はどんどんと進んでいく。
 ルエリア先生は、部活動一覧という名簿を開き、数ページめくったところで『歌唱隊はどうだ』と聞く。
「常々人が足りていないぞ」
「あの部活は、部長のルシエルが厳しいから嫌がって辞めてくんじゃねーの?」
 俺あいつ好きじゃねーしとヴィルフリートが悪態をつき始めたが、ルエリア先生は『お前が入部するのではないだろう』と言って次の提案を口にする。
「運動が得意であれば野球部もあるな。剛速球を投げる投手が欲しいらしい」
「無茶苦茶な要望ですねえ……レティシス君、君強肩?」
「あまり野球はやらない」
 乗り気ではないレティシスに、ルエリア先生も『では自分に合いそうなものでも探せ』と、書類を押し付けて教室に戻れと三人を追い払う。
「なるべく早めに提出しろ。イネス、途中で面倒を放り投げるなよ」
「はーい」

 失礼しましたと挨拶し、イネスは職員室の扉を閉めると、放課後に部活動めぐりでもしようとレティシスを誘う。

「……いいよ、自分で探す。あんたが厚意的なのはありがたいけどさ」
「そう?  一人で探せる?」
 心配そうなイネス。割と面倒見は良い性格のようだ。
 実をいうと四六時中世話を焼かれるのも自由が無くて辛いし、相手のペースにつられてばかりで嫌だったのだ。
「ま、部活くらい見つかる。やりたいものがあるならそれにするし」
「どうしても困ったら、おにーさんに相談するんだよ。力になるよ」
「ありがとう」
 イネスとヴィルフリートに礼を言って、レティシスは入部一覧などの書類を適当に四つ折りにしてポケットへと突っ込んだ。


このお題【安心のフォロー体制】は、
野薔薇様よりお借りいたしました。